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岐阜簡易裁判所 昭和60年(ろ)79号 判決

主文

被告人朝鹿自販機株式会社・同山本泰行を、それぞれ罰金六万円に処する。

被告人山本泰行において、右罰金を完納することができないときは、金二〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人朝鹿自販機株式会社から、押収してある雑誌ザ・ギャング二月増刊号二冊(昭和六〇年押第一六号の六)を没収する。

訴訟費用は、被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人朝鹿自販機株式会社は、自動販売機により図書を販売することを業とするものであるところ、同被告人会社の代

表取締役である被告人山本泰行は、同被告人会社の業務に関し、

第一  昭和六〇年四月一三日ころ、岐阜県羽島郡笠松町美笠通二丁目一七番地付近道路沿いの喫茶店「つくし」前において、被告人会社が同所に設置し、管理する図書自動販売機に、岐阜県知事が、昭和五四年七月一日告示第五三九号をもって、あらかじめ指定した有害図書に該当する雑誌「オレンジ通信二月号」一冊・「ザ・ギャング二月増刊号(MY美少女)」二冊を収納した。

第二  同月一八日ころ、右同所において、同図書自動販売機に、右同様有害図書に該当する雑誌「コスモス通信二月号」一冊を収納した。

第三  同年四月一三日ころ、岐阜県大垣市和合本町一丁目二八七番地付近道路沿いの「池田屋」前において、同所に被告人会社が設置し、管理する図書自動販売機に、右同様有害図書に該当する雑誌「ザ・ギャング二月増刊号(MY美少女)」一冊を収納した。

第四  同年五月六日ころ、前記第一事実記載の場所において、同図書販売機に、同様有害図書に該当する雑誌「ジゴロ二月号」一冊を収納した。

第五  同年八月中旬ころ、右同所において、同図書自動販売機に、同様有害図書に該当する雑誌「シネマロード五月号」、「シネマロード六月号」各一冊を収納した。

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為(判示第一は包括して一個の所為)は、いずれも岐阜県青少年保護育成条例第二一条第五号、第六条の六第一項本文、第二四条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第二項により、各罪所定の罰金の合算額の範囲内で、被告人らをそれぞれ罰金六万円に処し、被告人山本泰行については、同被告人が右罰金を完納することができないときは、刑法第一八条により金二〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置することとし、押収してある雑誌ザ・ギャング二月増刊号二冊(昭和六〇年押第一六号の六)は、判示第一の犯罪行為を組成した物であって、被告人朝鹿自販機株式会社以外の者に属しないから、刑法第一九条第一項一号、第二項本文を適用してこれを右被告人会社から没収する。なお、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により被告人らに連帯して負担させることとする。

(弁護人の主張に対する判断)

一  本件条例のように、各地方公共団体が条例によって青少年の保護育成上有害である図書の指定基準を定めて販売等を規制するのは、その規制の内容や運用に著しい地域差を生ずることになるから、そのような条例は、憲法第一四条が保障する法の下の平等に反して無効であるとの主張について

昭和六〇年一〇月二三日最高裁判所大法廷判決において、福岡県青少年保護育成条例が憲法第一四条に違反しない旨判示するにあたって引用した、昭和三三年一〇月一五日最高裁判所大法廷判決(売春等取締条例違反事件)の趣旨に照らし、右弁護人の主張は採用できない。

二  本件条例が有害図書の認定基準として掲げる「著しく性的感情を刺激し、又は著しく残忍性を助長する。」との文言は、その内容が広汎、かつ不明確であって、憲法第三一条が保障する罪刑法定主義に違反するとの主張について

なるほど本件条例第六条第一項は、運用に関する第九条の規定を考慮せずに、その文言自体をみると、必ずしも犯罪構成要件規定として十分であるとはいえないが、しかし、本件に適用される第六条第二項については、昭和五四年七月一日岐阜県告示第五三九号によって、その意味、内容がより具体的に定められているのであるから、この種の取締規定としては、憲法第三一条によって要請されると解される犯罪構成要件規定の明確性に欠けるところはないというべきである。

三  本件条例による有害図書の指定は、当該図書の全面的販売禁止の結果を招くこととなるから、右指定に関する規定は、検閲を禁止した憲法第二一条に違反して無効であるとの主張について

本件条例が定める有害図書の指定は、自動販売機による販売等、限られた販売方法等の規制に関するものであるから、本件条例の目的からみて、合理的な制限と範囲内に止まるものであって、検閲を禁止した憲法第二一条に抵触するものではないと考える。

四  その他の主張について

先ず本件条例のいう有害図書と青少年の非行化の間に因果関係を肯定すべき証明がないとの点についてであるが、当裁判所も、両者間に何らの因果関係もないことが明らかであれば、本件有害図書に関する規定は、制定の根拠を欠き、無効であるといわざるをえないが、しかし、現在の状勢下において、因果関係を全く否定することは相当でないと考える。

次に有害図書の認定基準を定めた第六条第一項と第二項は、その基準の定め方に著しい矛盾があるとの点についてであるが、当裁判所としては、その見解にも直ちに同調することができない。

すなわち、第一項の事後的個別指定の場合と異なり、当初から販売業者に処罰を伴う条例違反の危険を負担させるべく、あらかじめの指定を定めた第二項においては、第一項の認定基準と質的に同一である以外に、量的な基準を加えることには、それなりの合理性があり、かつ、こうした二様の取締規定をおくこと自体、矛盾又は不合理であるとはいえないものと考える。

以上、本件条例が無効であるとの弁護人の主張は、すべて採用できないこととしたが、しかし、条例の内容や運用に地域差のあること、特に他府県においては、本件図書と同一内容の図書について取締りがなされていない点は、量刑にあたって十分に斟酌すべきであるとの立場において、主文のとおり判決した次第である。

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